楡男

一億人の腹痛と辞書と毛虫とオレンジと

もみあげ群像

企業説明会に出向くときはスーツを着て、でも暑いのでジャケットとネクタイは会場の手前まではつけないでおく。30分くらいは時間に余裕を持って行って、会場の所在を確認する。時間があまる。ありがたいことに今日は会場近くにベンチが設置されていたので、腰掛けて道行く人を眺めつつ、いかにも就活風の身なりの人がそっちの路地によく入っていくのに気づいて、この企業は志望者が多いのか(説明会参加者が二人とか一人だけとか、そういうのが続いていたので)と思ったりしていたら、エクスキューズミーと声がした。
その人は台湾から来ていて、ある建物に行きたい、パソコンの画面に表示されてる住所を写メしたやつを見せてきて、会場側が用意した簡易な地図も持ってるんだけど、要するにここからの道を教えてくれということらしい、遅れそうなのか額に丸い汗。僕はさっと取り出した普段使いの文庫版の地図でその住所を探してみるが特定できない。ところどころ番地レベルでは記載に抜けがあるのだ。しょうがないのでスマートホンでGoogle Mapを出し、GPSで現在地を特定した。で行き方わかるはずなんだけど、特定された現在地がなんか実際と違う気がして、意外とずれてるときあるからな(だから紙の地図を使っている)、しかしそうすると適切なガイドができないわけで、そんな用意もないのに案内を引き受けてしまった自分は「お時間大丈夫ですか」と尋ねることも満足にできず、台湾人の男はどちらかというと自分の理解のために英語でなにかまくしたてるんだけど半分くらい中国語に聞こえて、そのくらい速くてこなれてるって意味なんですけど、最終的に自分のグーグルマップに表示されてる交差点と男の持ってる地図に載ってる交差点これとこれは同じ交差点だよ!と指摘したら何かを納得したらしく(って無責任な言い方だが、その指摘によって決定的に何かが進むと判断したのは僕自身であるわけで)、そうかこうしてこうして行けばいいのか、ありがとうみたいな調子で英語をまくしたてて握手して去って行きました。握手かーって、ちょっと目が覚めた。
何が言いたいかというと、この一連の流れの中で男に何かを伝えられただろう唯一の表現が、「(ふたつの交差点を順に指差して)This is this.」という文であったという事実が、こう。でも英語力のなさを嘆くというよりコミュニケーション能力というか、いろいろ果敢に試してみる気概が必要よね。英会話とかチャレンジしてみたい気がした(素直)。英語がというか、そういう不自由な状況の中でいろいろ試みを繰り返していると根性が養われそうだよね。