楡男

一億人の腹痛と辞書と毛虫とオレンジと

東京は最高37度と予報されていた本日(ここは東京ではないですが)、朝からはじめから暑かった。いつも窓を開いたまま寝てるけど、上の窓からいつもはいくらか涼しく感じられる空気が漏れ入ってくるものだけど今日はすこしも涼しくなかった。部屋と同じなまぬるい空気がよどんでいるだけだ。しかし喉が渇く。気温の高さを直接肌で感じるわけではない。ただ喉が渇く、汗が異常に出る、息切れしやすくなる、そういう兆候でもって気温の高さを間接的に知るのだ。熱を感じるというより空気がどろどろしていた。空間の中を動く身体にぬるぬるまつわりついてくる。うそだ。空間なんかなかった。たんにすべての物体をその中に収めるそれだけの役割の空間なんて頭を打ったはずみで生まれた仮構物さ。わたしたちを取り囲んでいたのは、たんにどろどろべとべとの大気だ。

話が前後するけど、ようするに外に出ていた。前日から暑い暑い言われていたので、どんなもんか体験しておこう、って。ほとんどお祭り気分だ。病人も死者も出てるので不謹慎かもしれない。わかんない。あまり深入りしても仕方ない話題という気がする。駅までの道がもっとも時間が長く、もっとも汗をかいた。すごい。顔を流れる汗が見える。地面にぽたぽた落ちる。道しるべにできそうなくらいだぜ、と思った。それなのにすれ違うニーチャンは涼しい顔で通りゆき、ネーチャンは白い顔してよぎっていくので、自分が異常なのではないかと訝しんだ。あっちー。のちのち反省してみるに、背中を汗でぬらしていた人は多く見られたから、人びとが汗をかいていないわけがなかった。顔に出る人とそうでない人がいるのかねえ。

他人を観察したついでに、浴衣?和服を着てる人がいたのは専門外だからいいとして、下駄を履いてるひとを何人か見たのがアンテナに引っかかった。しかし一様にフェイク下駄だ(強調)。底に緩衝材が貼ってある、音のしないやつ。おまけに底が歯(〓の形のやつ)ではなく、浅いヒールみたいな形になってる、スリッパまがいのやつ(罵倒)。ファッション下駄だ。いや、これは機能面を含めてファッションを考えるかどうかにかかっているのだ……、と、夜に買い物に出ながら考えた。ある種の不自由さに下駄を履く意味を僕は見出しているのであり、道具に自分を慣らしていくことに楽しみを見出している。

かなり早い段階で草履で鼻緒ずれを起こし、そもそもこの草履だいぶ具合が悪くなっていたのか(裏が剥がれたのも無理もないことだったのか)、歩いていてすぐ疲れてしまった。というのが、暑いのとあいまって、図書館と電気屋をちょっと見にいっただけなのにみょうに疲れてしまった。本とかろくに読めるはずもなく。