楡男

一億人の腹痛と辞書と毛虫とオレンジと

ここ一週間ほどの(といって、一週間ほど帰省していたので想像半分だけど)、じわっととろけそうな気候は落ちついて、風が吹いてなんだか爽やかなシーンさえあったのだが、それでも歩いていれば汗はかく、日光が目に入る、しかめつらになり「暑い」「暑い暑い暑い暑い」「しぬ」、暑いことの半分は暑いと思うことから出来ていてようするにノリノリで全身で暑さを体現するのだ。気候のコールに対するレスポンス。完全に乗らされている。たまに真顔になると暑さが払われてクリアな世界が見える。でも気を抜くとすぐに眉が下がってきて手足が暑さに支配される。

街へ出ると、浴衣に身を包みソフトボトムな下駄をはいた日焼け男などが散見されていちいちにがにがしく、こちとら五月ぐらいから草履ばきなんだが、なめんな、と密かに思っていたりしたのですが、そんな中だらっとした恰好のおっさんがミリ単位のぺったぺたの薄い雪駄をかけて難儀そうに歩いていたのをみて胸のすく思いでした。世界はわれらのものだ。

帰りに夕焼けを見て、日が暮れていったのが、もちろん、だんだん日が暮れていくなかで散歩をするのは格別に気持ちいいことだ。ところで、秋を感じて、空の色が青かった。暗い色。くらいさみしい、夜になってから一人で帰る帰り道のものさびしさが、それが秋や冬のものだと、気温も落ちついて涼しくなっていて、まちがいなく寒さに向かう涼しさで、空の色は暗いのに青くてなぜかビビッドだ。彩度が高い。それに対して夏のはじまりは緑が鮮烈だ。夏は昼間が、秋は夕方が、彩度が高いということか。