楡男

一億人の腹痛と辞書と毛虫とオレンジと

つるはし給仕

帰り、お腹がすいたので駅のニューデイズでゆで卵を買った。改札前にごみ箱があったので、その近くで食べることにしたのだが、みなさんご存知のようにゆで卵を食べるには殻をむかねばならず、殻をむくためにはひびを入れる必要があり、ひびを入れるには硬い場所にたたきつける動作が避けられないわけですが、駅の改札前にはゆで卵をたたいてひびを入れるのに適した場所など当然ながらなくて、それはゆで卵を食べる場所として駅がデザインされていないからなのですが、デザインするということは多くの場合あらかじめ特定された機能を実現し、同時にあらかじめ特定されていない用途にはまるで使えないように造形することを、まあ、多くの場合伴うんじゃないかとわたし思うんですが、ようするに何かというと壁と壁の継ぎ目の金属の部分にゆで卵をコンコンと打ちつけている僕はなんだかとてもばかなことをしているんじゃないかという気になりました。それはたとえば針金を手に歩き回ることで宇宙からの電波をキャッチできると信じている人のように。しかし駅の壁と壁の継ぎ目の金属の部分にゆで卵をコンコンと打ちつけるという訴えかけは経験される世界に確実に変化をもたらし、つるつるの白身が目の前に現われて口に出来る状態のゆで卵が手に入るという成果に結実するのです。ぼくはなにもばかなことはしていない。でもなんだかうしろめたいですね。なんだか、どんなところでも、その場所に応じて「ふさわしいふるまい」が設定されていて、でもそれは禁止条項ではなくてOKリストなので、裏を返せば「ふさわしくないふるまい」が無数に存在する結果になっている。こんなくだらないことする自由まで奪われてよいものだろうか。おれは断固戦うぞ。いろんなところでゆで卵をむいてやる。

あと帰ってからコーンスープを作った。4人分のレシピでタマネギを丸々一個使ったら、コーンよりタマネギが優勢になった。食感が似てるからあまり気にならなかったけど。