楡男

一億人の腹痛と辞書と毛虫とオレンジと

全日本ニョクマム連

齋藤健法務大臣の発言に腹を立てている。まず、発端は次のニュース。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230407/k10014031641000.html

入管施設で亡くなったスリランカ人の女性の遺族の弁護団が、収容中の女性が体調を悪化させていく様子を写した映像を公開したことについて、齋藤法務大臣は、「映像は原告側が勝手に編集し、マスコミに公開したものだ」と述べました。

この「勝手に編集」発言を受けて、齋藤氏は記者会見で次のように答えている。こちらはニュース記事を見つけられなかったので、音声から書き起こします。

ええとですね、まずですね、あの私の記者会見における発言でありますけど、ご指摘の私の発言はまあ原告側がビデオ映像を公開したことについて事実関係をまず述べました。第一段として。その第二段としていま訴訟の最中の話であるからその事実について私はコメントは控えます、ということを申し上げたわけでありますので、それ以上のものではございません。

音声はこちら。(3:18頃-)

https://open.spotify.com/episode/6oMBPanB0KDSA1CkIMoME4?si=cfad1879d4e04535

自分が言ったことを言っていないことにするのは与党政治家の常套手段なので驚きはしないが、あらためて、よくもぬけぬけとこんな言い逃れを試みられるものだ。これを聞いて「そうか「勝手に」というのは特に意味のない言葉だったんだな」と納得する人はよほどのお人好しか、よほど迂闊な人だと思う。レトリックと呼ぶにはあまりにお粗末だ。にもかかわらず、そういったたぐいの言い逃れが通用してしまうのはいったいなぜなんだろう。

一つは「権力」だよね。言葉の力によるものではない。大企業に勤めている平社員が社長に同じようなふるまいをされたら、追及せずに流すのが普通だろう(この会社ヤバイと思うかもしれないが)。言葉の通用の仕方が歪む「場」がある。いや、権力勾配なるものが実際の日本の地形みたいに至るところアップダウンがあるものならば、言葉の飛び交うところもやはり至るところでその場所なりの歪みを見せているのだろう。とりわけ、政権中枢に近づくにつれてその勾配はひどくなっているようだ。

もうひとつ別の話題。昼に、スルメイカと黄色トマトのリングイネを作って食べた。スルメイカは別に好物ではない。でもこのレシピは「おいしい」。好物であることと、おいしいと感じることとの間には見かけ以上の断絶がある。

「好物」って何だろう、と思い巡らせてみた。店に入ってメニューにあったらつい頼んでしまうやつが「好物」ではないか。あるいはスーパーの惣菜コーナーでつい買ってしまうやつ。私ならカキフライがそれだ。「好物」は行動に紐づいている。