楡男

一億人の腹痛と辞書と毛虫とオレンジと

松本俊彦編『「助けて」が言えない』

読んでた期間: 2024/4/27~2024/5/8

松本俊彦編『「助けて」が言えない  SOSを出さない人に支援者は何ができるか』、東京:日本評論社、2019年。B6判、263pp.

雑誌『こころの科学』の特集を増補して書籍化したもの。援助者(医療従事者や支援団体の所属者)の視点から、「援助希求」をテーマに編まれている。題材は多岐にわたっており、自殺を扱った4章、薬物依存を扱った5章、認知症を扱った10章が私は興味をひかれた。個々の題材についてはマスコミを通じてなんとなく知っていたけれど、その「常識」の誤りを教えられるところが多かった。
たとえば自殺なら〈「死にたい」と言っている人は本当には死なない〉みたいな偏見だとか、薬物依存なら世間的なスティグマといったものがあり、こうした世の中に流布した誤解によって適切な援助が妨げられていることが指摘されている。セルフスティグマという言葉もあるらしい。これは世間的なスティグマを内面化したものと理解できるだろう。
だから、「援助希求」がテーマに設定されているけれど、これは当事者の問題というよりはあくまで社会の問題なのだ、という基本スタンスで本書では扱われている。「はじめに」でも、〈当事者がSOSの声を上げられるように教育しよう〉といった最近増えているらしい考え方に対する違和感が表明されている。
そういうわけで、本書は〈なぜ「助けて」が言えないのか〉を解明する本ではない。とはいえヒントはたくさん載っている。読み終えてみての感想としては、「助けて」が言えない人は至るところにいるということ。そして、そもそも「助けて」は一般的に言いにくいこと、本人にとって負担になることだ、という点をまず認める必要があると思った。だから、巻末の鼎談にあるみたいに〈知らないうちに助けられている〉社会みたいなのが実現できるといいんだろうな。

自分の関心に引きつけて感想を書いたけど、それぞれの記事は執筆者が各自の判断で内容を決めているもので(おそらく)、内容には広がりのある本だと思います。