源河亨『感情の哲学入門講義』、東京:慶應義塾大学出版会、2021年(2022年4刷)。235pp.
「感情」を軸として、哲学や経験科学も含めた議論や知見を紹介する本。大学の授業テキストとして企画されており、半期の授業回数に合わせて15章立てになっている。
感情の特徴づけから「なぜ人々はホラーを好んで見るのか」みたいな進んだ話題まで、幅広いトピックに触れられているのが強みで、初めて触れる分野だったので勉強になった。
一方で、限られた紙幅の中で多くの話題を扱おうとしたためか、個々の話題の扱いは手短で物足りなく感じた。あくまで感情研究の成果を紹介するというスタンスなら受け入れやすいんだけど、著者が主体になって論じているような書きぶりになっているため、ところどころ独断的に議論を進めているように感じたり、つまみ食い的に見えるところがあった。
前書きにあるように本書は哲学入門も意図しているということだけど、論者としての一貫した立ち回りとか、厳密さみたいなものも哲学にとっては大事だと思っているので、そうした価値がなおざりにされている点は残念だった(過去に哲学科で学んでいた者としては)。
でも半期の(それも一般教養の)授業で扱える分量・内容となると贅沢な望みなのかもしれない。文献案内はしっかりついているので、続きは本格的な本で勉強してねという立てつけなんだと思う。