楡男

一億人の腹痛と辞書と毛虫とオレンジと

さすがに砂丘

さむい。これを書いているPCデスクは窓際にあるので、夏は暑く冬は寒い。なぜこんな配置にしたのか。「ことのなりゆき」でしかない。10年ぐらい住んでいるこの部屋に、導入した順に家具を置いて行ったら、条件の中で最適な位置がここだったというだけだ。もう今更配置換えも難しい。換えるとしたら本棚を動かすしかないだろう。そうでなくてももうとっくにこの部屋は狭いのに、引っ越すのがとにかく面倒臭いという理由が強固すぎて年に何回かこういうことを考えては忘れるという時間を過ごしてばかりいる。

引越し。一回経験しちゃえばどうってことないのかもしれないけどね。

病み上がって動けるようになったとはいえ、「何かをする元気のない日」程度までしか回復しなかったので、最低限のことはしなきゃと思いながら家計簿を入れるついでに家計簿に使っているExcelファイルを作り込んだりしていた。そうしたら少しは元気になった。とにかく手を動かしているうちに手を動かせるようになる、というありふれた逆説がある。

数日乗れてなかった自転車に乗らずにはいられず、また、少しも運動せずに月曜日を迎えるのが怖くもあり、夕食には自転車で近くのロイヤルホストに行くことにした。体調面・精神面問わずちょっとつらいときに行くロイホ。自分の人生の中でなんとなくそういう位置付けになっている。

カップルが痴話喧嘩している席の隣に通された。他にも空き席あったはずだけどなぜそこに?と思わないではなかったが、まぁ別にいいかという気持ちでもあった。けっこう、始終イライラしてしまうのかなと思いきや、その言い合いをBGMに食事するぐらいの気持ちの余裕……ではない気がするけど、余裕の産物でありうるものが自分の中にはあった。男女カップルの男の方の声だけが聞こえていて、なんだか聞いていると「きみに構っているほど暇じゃないんでね」みたいなセリフも聞こえてきて、こういうのをクズと言うのか~~と興味深く、ラジオでも聞くように耳に入れていた。こういう言葉を自分は使うまいと思っていたけど、そう表現するのがふさわしい言動って実際にあるんだな。勉強になる。そしてその一連の会話の様子が自分には〈よくあること〉というフレームで受け止められていて、それを一体どこで私は学んだのか、と訝しんだ。恋人がいたことはごく一時期しかないし、フィクションに触れる機会も極めて限られている自分が、「恋愛のあるある」をどこで身につけたのか。しかもそれはこの数年間──一人で過ごすことがそれまでよりも多い数年間──で起こった変化だとも思われる。知らん間に発達していることもあるもんなんだな。