楡男

一億人の腹痛と辞書と毛虫とオレンジと

賀正・落穂拾い

ジョギング中、すれ違いかけた自転車が不意に停車して、乗っている人がスマホを触りはじめた。それを見て私は、「スマホで私の居場所を誰かに報告しているんだったらやだなー」とっさにそう思った。「…だったらやだなー」と冗談めかして突き放した言い方をしているにしても、そこを外せば明らかな妄想で、統合失調症の傾向も自分にはあるのかなあと思ったりした。どうも精神疾患と呼ばれるもののカタログは、そのアイテムたちを同時に1つしか装備できないというものではなく、複数の症状が重なりあいながら同居しがちなもののように思う。発達障害が二次障害としてうつ病を併発するみたいに。

それはさておき、どうも私は身の回りに起こった出来事を〈自分が原因になっている〉ものとして考えたがる傾向がある。さっきの例みたいにだ。自分のおこないが他人に実際に以上に影響を与えるものとして考えたがる。実際は、自転車の乗り主は、偶然そのとき通知が来たのかもしれないし、何か大事な用事を思い出したタイミングが偶然私とすれ違うときと一致したのかもしれない。ここで、「偶然」という言葉の意味は、〈私が原因になっている〉ことを「必然」と置いたうえで、それ以外のことを「偶然」と位置付ける言葉遣いになっている。その言葉遣いの中にすでに〈自分〉中心的なものの見方が埋め込まれている。